logo

企業・一般法人

外科専門医かつ補綴専門医の日比英晴教授が語る「歯科の核心」とは【Dr's Interview#02】


名古屋大学医学部附属病院で口腔外科の教鞭を執る日比英晴教授。


口腔外科の専門医であると同時に、歯科医療の根幹をなす補綴の専門医でもある、稀有な教授


医師が大多数を占める国立総合大学病院の中で、

歯科医療の中核を担う象徴的存在として学術・臨床・教育の全てに

高い使命感を持って尽力している。



複数の世界を渡り歩く日比教授だからこそ、

現代の歯科医療が陥る構造的な矛盾

を客観的に見据えていた。


本稿では、臨床哲学から次世代への警鐘までを深掘りし

歯科医師としてあるべき姿を問う。






| 1. 専門医制度と学会の変革期



現在、歯科業界の専門医制度は大きな変革期にある。

これまで各学会が独自に認定してきた資格が、日本専門医機構により公的資格へと再編されつつあるのだ。


これは個々の歯科医師のキャリア戦略に直結するだけでなく、

業界全体の信頼性を担保する重要な動きである。


日比教授の解説を基に、その内実を紐解くと、いくつかの課題が浮かび上がる。


・新制度への移行: 

日本補綴歯科学会などが新専門医制度へ移行し、社会的な信頼性確保への一歩を踏み出した。


・インプラント問題というトリガー: 

インプラント治療が「トラブルを引き起こしやすい」と指摘され、より厳格で統一された専門医制度を求める大きな引き金となっている。


・認定制度乱立の過去: 

かつて独自に「学会」を名乗る一部のグループが、認定制度を乱立させた歴史がある。その反省から制度統一が進められている。



こうした複雑な業界力学の中で、医科と歯科、外科と補綴といった複数の領域を渡り歩いてきた日比教授だからこそ、

内部の人間には見えにくい、セクショナリズムや慣習の歪みも客観視できる。


この立ち位置に上り詰めた故に、より鋭い問題意識が生まれているのだ。


こうした業界構造の議論は、日比教授にとっては抽象論ではなく

臨床現場や学会でも、積極的に発信してきた重要なテーマである。




| 2. 大学病院という特殊性



日比教授が大学病院で向き合うのは、生命機能そのものに関わる症例が多々含まれている。


審美的な要求に応えることの多い一般開業医に対し、

機能再建や質的向上を最優先に考えた、長期安定的な治療計画だ。



事例1:顎変形症手術―「気道」を確保するための骨切り 

見た目の改善以上に、手術の主目的は「睡眠時無呼吸」という生命に関わる問題の解決にある。顎骨を前に出す骨切り手術で気道を確保し、機能を劇的に改善させる。術後の骨固定に体内で溶ける「吸収性プレート」を用いるなど、先進的な取り組みも欠かさない。これは単なる美容整形とは次元が異なる、呼吸機能の再建である。


事例2:重度外傷の再建―骨から始まる包括的アプローチ 

顔面骨が粉砕骨折したような症例では、治療は一度では終わらない。失われた骨を再建(骨造成)し、矯正治療を行い、最終的にインプラントを埋入する。これは「単純なインプラントや単純な骨造成とは全く違う、包括的な再建外科であり、緻密さと忍耐が要求される。ペリオまでも意識した補綴設計には驚愕しかない。


これらの症例に共通するのは、

患者の失われた機能を取り戻すことを最優先する、揺るぎない臨床哲学だ。



しかし、この卓越した外科的アプローチは、単なる技術だけで成り立っているわけではない。

その根底には、歯科医療のもう一つの核心分野への深い理解と敬意が存在する。


そう、全ての治療のゴールを見据える補綴の視点である。




| 3. 哲学の核心:見過ごされた「補綴」の力



歯科医療において、失われた歯の機能と形態を人工物で補う「補綴」は、全ての治療の最終ゴールを定める「土壌」である。


だが、外科医の中にはこの補綴を軽視する風潮も存在する。


外科と補綴、双方に精通する日比教授の視点は、この業界の根深い病理に鋭いメスを入れる。


「最終的な噛み合わせや義歯の設計という補綴学的な知識なしにインプラントを埋入する行為は、医療の本質を見失っている。」


この哲学は、単なる理想論ではない。


「インプラントだけが選択肢ではない」という信念は、豊富な臨床経験に裏打ちされている。


「部分床義歯が30年使えるっていいでしょ。」


と、自身が手掛けた症例を例に日比教授は語る。


最新技術に飛びつく前に、適切な補綴治療が、いかに長期的な機能維持を可能にするか

この事実は、何よりも雄弁だ。


外科手術であれ矯正治療であれ、全ての治療は補綴という最終ゴールから逆算して計画されなければならない。


日比教授の思想の核心はここにある。


この「歯科の土壌」とも言うべき補綴学の知識こそが、全ての治療の根幹を成している。

この包括的な哲学は、専門分野の壁に安住しがちな次世代の歯科医師たちに、

何を問いかけるのだろうか––––


真に患者のためになる治療とは何か


を常に自問し続け、

どこまでも誠実で透明性の高い医療の未来像を力強く示してくれる日比教授。



専門性の深さと、それを統合する視野の広さ。


その両立こそ、これからの歯科医師に求められる姿なのかもしれない。






| ドクターズプロフィール


名古屋大学 大学院医学系研究科

総合医学専攻 頭頸部・感覚器外科学 教授

日比 英晴

プロフィール(LINK)




| レポーター


\\ 歯科医療者の皆様を第一に!//

医療者TERRACE 編集部

 歯科医師・歯科衛生士チーム 加藤圭 

口腔外科#外傷義歯#部分床義歯義歯#技工義歯#その他補綴(CrBr)・咬合#その他その他#他職種連携
16 件のリアクション